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最高裁判所第一小法廷 平成3年(行ツ)43号 判決

上告人

播和之

多田巧

右両名訴訟代理人弁護士

林伸豪

川真田正憲

被上告人

山本勇

右訴訟代理人弁護士

松尾敬次

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人林伸豪、同川真田正憲の上告理由第一、第三について

公有地の拡大の推進に関する法律一〇条に基づいて設立された土地開発公社の理事の違法な行為につき、その設立者である普通地方公共団体の住民は、地方自治法二四二条の二第一項四号の規定による訴訟を提起することができないとした原審の判断は正当として是認することができる。原判決に所論の違法はない。論旨は、独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

同第二について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官四ッ谷巖 裁判官大内恒夫 裁判官大堀誠一 裁判官橋元四郎平 裁判官味村治)

上告代理人林伸豪、同川真田正憲の上告理由

第一 はじめに

一 本件は徳島県板野郡藍住町の町営のごみ焼却場建設における用地取得にともなう不正事件である。

藍住町は当時の徳元町長のもと、昭和五三年頃同町大向地区にごみ焼却場建設を計画した。

用地は同町大向地区の約二町歩の土地があてられることになり、地権者一二名と同年六月頃から買収交渉にはいった。

町の方針は(一)公簿により金銭買収による、いわゆる替地は行わない(二)全員平等の条件によって買収するとのことであり、結局訴外木内美代子を除く一一名との間に同年一一月には買収契約が調印された。その内容は公簿面積によって反当り一二六〇円(坪四万二〇〇〇円)によって売買するというものであった。

ところが木内美代子のみはいわゆるゴネ得をねらい右調印に応じなかった。

同女の夫訴外木内信恭は現職の県会議員であり、町における影響力は強く本件買収交渉も全て木内信恭があたっていた。

しかし徳元町長は用地取得にともなう公平を貫き木内の方針外の要求には応じなかった。

二 徳元町長は昭和五三年五月で任期が終了し再出馬はしなかった。このため町長選挙では本件被上告人山本勇ともう一人の候補者が激しく争い、結果として被上告人が当選した。

木内信恭は右選挙において被上告人陣営の中心的な人物であり、両者の関係はきわめて深く、このことは町民周知のところである。ところが新町長就任後、わずか二ケ月後、たいした交渉もないまま、昭和五四年七月九日付で木内所有土地について前記一一名の地権者と同じ条件即ち公簿面積に基づく反当り一二六〇円の計算による金一二一八万円で売買契約が表向き成立し、買収が行われ、同日右金員が木内に支払われた。

ところが裏では木内のみ、実測により、余歩分も追加支給する決定が被上告人によってなされ、同年一〇月二五日一三四万四〇〇〇円の追加支払いがなされていた。

三 ところが問題はそれにとどまらず、町がもと訴外片岡金一所有で藍住町土地開発公社名儀で購入していた中新田九二番一(その後合筆、分筆を行って中新田九一番四 田一三九八平方メートル――以下本件土地という)を替地として要求するに至った。

その結果、場所、地形等からいって同一面積でも木内土地より本件土地がはるかに評価が高く、かつ面積の点では木内土地が九五八平方メートルに対し本件土地が一三九八平方メートルであるにもかかわらず被上告人や木内らの言によるとズル替(清算なしで等価とみなして交換すること)の約定がなされたというものである。そして右ズル替え約束に基づいたと称し昭和五六年四月に至って、「交換」名目で本件土地は木内に所有権移転がなされるに至り、木内の所有となった。(〈書証番号略〉)

このように本件は町長たる被上告人が県議であり、自らの大柱である木内に対し、他の地権者とは全く異なって好遇した替地提供というにとどまらず、収用土地よりはるかに価値の高い土地を何ら清算することなく与えたものであって明らかに地位濫用による不正な出来事であった。

四 このため上告人等は本件土地の前記条件での木内に対する供与は不当な財産の処分にあたるとして住民監査請求をなしこれが認められなかったので、地方自治法二四二条の二に基づき本訴に至った。そして一審では一定額の損害金の返還を被上告人に命じたのである。又本件は町議会でも一〇〇条委員会が設置され問題点が論議された。

この間いずれの場合においても本件土地は名儀は開発公社であっても実質所有権は町にあるものとしてその処分が町長たる被上告人の処分に該当することについては被上告人自身やその代理人もふくめて当然のこととして認め審理されてきた。

然るに二審になって突然被上告人側は本件土地が開発公社所有にあたるので地方自治法二四二条、同二四二条の二に該当しないと主張し始め、原審はこれを認めて却下するに至ったものである。

しかし本件原審判決の如き結論になることになると実質町が所有しているものであり、その処分であっても形式上名儀が開発公社にしておけば住民の監視を免れ、監査の対象にならなくなり違法不当がまかり通ることにならざるを得ず、本件判断にあたっては地方自治法の本旨に基づく慎重な検討による再考が必要であると思料する次第である。

第二 〈省略〉

第三 原判決は地方自治法二四二条の二、同二四二条に違背している。

一 原判決は前述の通り本件土地は開発公社の所有であり、同公社は町の一機関とみることが出来ず、又地方自治法二四二条の二は濫りに拡大解釈すべきでないからその処分は同条に該当しないとする。

土地開発公社が町と別個の法人格を有することにしているのは地方公共団体の公有地の拡大の計画的な推進を図るため、当該公共団体に必要な公有地を公共団体にかわって先行取得するために設けられた技術的な措置に過ぎず、本来それは公共団体の行政の範囲に属することがらである。別法人とした主たる理由は先行取得する土地の所有名儀を公社名儀に出来るようにし、迅速な対応を図れるようにしたものと考えられ、議会や、住民の民主的コントロールのらち外に置こうとしたものとは解されない。

二 藍住町土地開発公社は全て藍住町の出資によって設立されたものであり役員も全て藍住町長が任命したもので、その理事長は藍住町長が兼任している。

土地開発公社はその地方公共団体の長たる首長が役員の任命権、解任権、業務の命令権など絶対的な権限を有し当該公共団体の長がその業務を統括しているのであるが、藍住町のように町長が公社理事長も兼ねているときは町長の公社に対する権限は絶対的なものとなり、これを監査、監督すべき機関が存在しない。そのような場合、地方自治の本旨に基づき住民の民主的コントロールを公社運営に反映させるためには公社の行為についても地方公共団体と同様の議会の支配、監査委員の監査や住民請求による監査、さらには住民訴訟などの作用を及ぼさなければ、本件の如き地位、権利濫用の公社のベールをかぶった不正が絶えず、これを是正することが出来ないことになってしまう。

そもそも公社の行為は公共団体の行政の一部に他ならず、地方自治法二四二条、同二四二条の二の適用があると解すべきでありこれを否定した原審判断は同法の解釈適用を誤ったものとして取消を免れない。

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